インターネットを通じてサービスを提供するWebアプリケーションは、日々多くのユーザーに利用される便利な仕組みです。
たとえば、ショッピングサイトや予約システム、会員ページなどがその代表例ですね。
でも、こうした便利な仕組みの裏側では、悪意のある攻撃者からの不正アクセスやサイバー攻撃に常にさらされているという現実があります。
たとえば、入力フォームからシステムの裏側に不正な命令を送り込む「SQLインジェクション」や、Webページにスクリプトを埋め込んでユーザーをだます「クロスサイトスクリプティング(XSS)」など、攻撃の種類はさまざまです。

こうした攻撃からWebアプリケーションを守るために活用されているのが「WAF(Web Application Firewall)」という仕組みです。中でも最近注目されているのが、クラウド上で手軽に導入できる「クラウド型WAF」。セキュリティの専門知識がなくても比較的簡単に始められ、常に最新の脅威に備えられるというメリットがあります。
この記事では、クラウド型WAFの仕組みや防げる攻撃の種類、そして導入する際のポイントや、オンプレミス型との違いなどを、できるだけわかりやすくご紹介していきます。
第1章:クラウド型WAFとは何か?
1-1. WAFの概要
WAFとは「Web Application Firewall」の略で、Webアプリケーションを狙った攻撃や不正な通信をブロックするための仕組みです。名前の通り、Webアプリケーションの“防火壁”のような役割を果たします。
一般的なファイアウォールはネットワークの出入り口を監視して、特定のポートやIPアドレスへの通信を制御しますが、WAFはさらに一歩進んで、Webアプリケーションの中身――たとえば、入力フォームやリクエストの内容まで細かくチェックできるのが特徴です。
特に、ECサイトや会員制のサービスなど、ユーザーが入力した情報をサーバー側で処理するようなWebサービスでは、セキュリティの要となる存在です。
1-2. クラウド型WAFの特徴
クラウド型WAFは、従来のように物理的な機器を自社で設置・運用するのではなく、クラウド上でセキュリティ対策を提供するサービスです。インターネット経由で利用するため、導入の手間が少なく、初期費用や保守の負担も軽減されます。
設定もシンプルで、多くのサービスではDNS(ドメインネームシステム)の設定を少し変更するだけで利用が開始できます。専任のセキュリティ担当者がいない企業でも始めやすく、導入後はベンダーが24時間体制で監視・更新してくれる点も心強いポイントです。
第2章:クラウド型WAFの仕組み
2-1. どうやって守ってくれるの?
クラウド型WAFは、ユーザー(クライアント)からのアクセスとWebサーバーの間に入り込むような形で動作します。いわゆる「プロキシ」のようなイメージで、通信の中継地点となり、すべてのデータを一度通過させるのです。
このとき、リクエストに含まれる内容を解析して、不審な動きや悪意のあるコードが含まれていないかを自動的にチェックします。問題がないと判断された通信だけをWebサーバーへ通すことで、アプリケーションを守っているのです。
既存のWebシステムを大きく改修することなく導入できるのも、クラウド型ならではの強みです。
2-2. 通信チェックの方法
クラウド型WAFがどうやって攻撃を見抜いているのか、もう少し詳しく見てみましょう。主に以下のような手法が使われています。
- シグネチャベース検出
過去の攻撃パターンを「シグネチャ(署名)」として登録し、同じような通信が来た場合に即座にブロックします。新しい脅威に対応するため、ベンダーが日々アップデートを行っています。 - アノマリ検出(異常検知)
通常の通信とは異なる不自然な挙動を検知する方式です。まだ知られていない攻撃(ゼロデイ攻撃)にも一定の対応力を持ちます。 - ブラックリスト・ホワイトリスト
特定のIPアドレスを拒否したり、信頼できる通信元だけを許可したりすることで、不正アクセスのリスクを軽減します。 - レートリミット(接続制限)
短時間に大量のリクエストを送ってくるようなアクセスは攻撃の可能性が高いため、一定の閾値を超えた場合にブロックする機能です。
このように、複数の仕組みを組み合わせることで、多種多様な攻撃に対して柔軟に対応できるようになっています。

第3章:クラウド型WAFが防御できる主な攻撃
クラウド型WAFが防げる攻撃には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは代表的な攻撃をいくつかご紹介します。
3-1. SQLインジェクション
データベースとやりとりする処理に対して、入力欄に不正なSQL文を紛れ込ませてシステムに命令を実行させる攻撃です。情報の抜き取りや改ざんが可能になるため、特に危険度が高い攻撃とされています。
WAFは、こうした不自然なSQL文が含まれているリクエストを自動で検出し、事前に遮断します。
3-2. クロスサイトスクリプティング(XSS)
Webページに悪意あるスクリプト(たとえばJavaScript)を埋め込み、ユーザーのブラウザ上で実行させる攻撃です。ログイン情報を盗み出されたり、偽の画面に誘導されたりといった被害が想定されます。
WAFはリクエストやレスポンスに不審なスクリプトが含まれていないかをチェックし、不正なコードの実行を防ぎます。
3-3. CSRF(クロスサイトリクエストフォージェリ)
ログイン状態のユーザーに対し、意図しない操作(たとえば、パスワード変更や注文処理)を行わせる攻撃です。ユーザーが気づかないうちに操作が完了してしまうこともあるため、非常にやっかいです。
クラウド型WAFは、送信元やセッションの整合性をチェックすることで、このような攻撃の成立を防ぎます。
3-4. DDoS(分散型サービス妨害)
複数の端末から大量のリクエストを送信し、Webサイトに過剰な負荷をかけてダウンさせる攻撃です。クラウド型WAFはこのような大量アクセスに対しても、レートリミットやIP制御で自動的にブロック対応を行います。
3-5. OSコマンドインジェクションやファイルインクルード
Webアプリケーションの機能を悪用して、サーバーに対してOSコマンドを実行させたり、不正なファイルを読み込ませたりする攻撃もあります。これらはシステムの乗っ取りや情報漏えいの原因にもなりうるため、WAFによる早期検出が重要です。
第4章:クラウド型WAFのメリットとデメリット
クラウド型WAFは非常に多くのメリットがありますが、もちろん全てのケースに万能というわけではありません。導入する際は、メリットとあわせて、デメリットや注意点もきちんと理解しておくことが大切です。
4-1. メリット
まずは、クラウド型WAFが持つ代表的なメリットを整理してみましょう。
手軽に導入できる
物理的な機器を設置したり、複雑なシステム構築を行ったりする必要がないため、クラウド型WAFは非常にスピーディに導入できます。DNS設定を変更するだけで使い始められるサービスも多く、「試しに導入してみたい」という企業にも適しています。
セキュリティ対策が常に最新に保たれる
クラウド型のサービスは、ベンダーがシグネチャの更新やルール設定、脅威分析を日々行っており、ユーザー側で面倒なアップデート作業をする必要がありません。これにより、日々進化するサイバー攻撃にも即座に対応できます。
運用・保守の負担が少ない
自社でセキュリティの専門知識を持ったスタッフを確保するのが難しい場合でも、クラウド型WAFであればベンダーが運用を担ってくれるため、安心して任せられます。特に中小企業にとっては大きな助けとなるでしょう。
費用を抑えられるケースもある
オンプレミス型と比較して、初期費用が安価であることが多く、必要な機能だけを選択できる従量課金型のプランもあります。長期的に見て、コストを抑えられる可能性があります。
4-2. デメリット・注意点
一方で、クラウド型ならではの注意点もいくつかあります。
カスタマイズ性に限界がある
サービスによっては設定の自由度が限られている場合があり、業種やサービス内容によっては細かな制御が難しいことがあります。特殊なセキュリティポリシーを運用している企業では、要件を満たせないケースもあるかもしれません。
通信の遅延が発生することも
ユーザーからのアクセスが一度クラウド型WAFを経由する形になるため、わずかですが通信にタイムラグが生じる可能性があります。通常はほとんど影響のないレベルですが、高速なレスポンスが求められるシステムでは注意が必要です。
クラウド事業者に依存するリスク
万が一、WAFを提供しているクラウドサービス側で障害が発生した場合、セキュリティだけでなくWebアプリケーション自体へのアクセスに影響が出る可能性があります。信頼性の高いベンダーを選ぶことが大前提です。
第5章:オンプレミス型WAFとの違い
WAFには大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型」があります。それぞれの特性を理解して、自社に適したWAFを選ぶことが重要です。
5-1. オンプレミス型WAFとは?
オンプレミス型WAFは、物理的または仮想的なアプライアンス機器を自社のネットワーク内に設置し、自社で運用・管理するタイプのWAFです。
セキュリティのポリシーやルールを細かく自社の業務に合わせてカスタマイズできるため、自由度の高い構成が可能です。また、社内でデータの取り扱いや管理を徹底したいというニーズがある企業には根強い人気があります。
5-2. 両者の比較と使い分け
それでは、クラウド型とオンプレミス型をもう少し具体的に比べてみましょう。
項目 | クラウド型WAF | オンプレミス型WAF |
導入の手軽さ | ◎(DNS設定のみで開始できることも) | △(機器設置・設定作業が必要) |
保守運用 | ◎(ベンダーが管理) | △(自社で対応) |
カスタマイズ性 | △(ある程度制限あり) | ◎(自由度が高い) |
コスト | ◎(従量課金で初期費用を抑えられる) | △(初期投資が高額になる場合も) |
通信速度 | △(通信が一度WAFを経由) | ◎(自社内で処理可能) |
たとえば、「スピード感を持って導入し、すぐにセキュリティ対策を始めたい」という企業にはクラウド型が向いています。
一方で、「大規模なシステムで細かい制御をしたい」「データを社外に出したくない」といったケースでは、オンプレミス型が適していることもあります。
導入目的や運用体制、そしてセキュリティポリシーにあわせて、どちらを選ぶべきかを検討することが大切です。
第6章:導入前にチェックすべきポイント
クラウド型WAFは導入が簡単といっても、「とりあえず入れてみよう」では不十分です。導入前にしっかりと確認しておくべきポイントがあります。
6-1. 自社のWebシステムに合っているか?
クラウド型WAFが自社のシステム構成やトラフィックに対応できるかを確認することはとても重要です。たとえば、複数のサブドメインを運用している場合や、特定のプロトコルを使っているケースでは、サービスによって対応の可否が異なります。
導入前には、ベンダーに自社の構成を伝えたうえで、サポート体制や技術的な制限について相談しておきましょう。
6-2. サービスの稼働実績とサポート内容を確認
WAFはシステムのセキュリティを支える非常に重要な役割を担うため、障害発生時の対応や普段の監視体制も気になるところです。
- どのような企業での導入実績があるか?
- SLA(サービス品質保証)はどの程度か?
- 問い合わせ対応は迅速かつ丁寧か?
こうした点を事前に確認することで、安心して運用を任せることができます。
6-3. 料金体系とコスト感を把握しておく
クラウド型WAFは「従量課金型」「月額固定型」など、
サービスごとに料金体系が異なります。
トラフィックの量や機能の利用範囲によって金額が変わるため、長期的に利用した場合の総額をシミュレーションしておくことをおすすめします。
「最初は安く感じたけれど、トラフィック増加で想定以上にコストがかさんだ」というケースもあるため、
料金面の見通しも慎重にチェックしましょう。

第7章:クラウド型WAFを選ぶときのポイント
クラウド型WAFの導入を検討する際、「どのサービスを選べばよいか分からない」と感じる方も多いと思います。特に初めての導入であれば、比較検討すべき項目が多くて迷ってしまうこともありますよね。
ここでは、選定時にチェックしておきたいポイントをいくつかご紹介します。
7-1. サービスの安定性と信頼性
セキュリティ対策の要となるWAFにとって、「止まらないこと」は大前提です。万が一サービス自体が停止してしまえば、Webサイトが表示されない・セキュリティが一時的に機能しないといったリスクが生まれます。
導入を検討するサービスが、どの程度の稼働実績を持っているか、過去に大きな障害が発生していないかなどを事前に確認しておくと安心です。また、サービスの稼働率(SLA)や、緊急時の対応体制も重要な判断材料になります。
7-2. 実装方式と対応範囲
クラウド型WAFには主に2種類の実装方式があります。
- DNS切り替え型:WAFを経由するようDNSを設定する方式。導入が比較的簡単で、多くのサービスがこの形式を採用しています。
- CDN一体型:コンテンツ配信とセキュリティを一括で行うタイプ。Web表示の高速化とセキュリティ強化を同時に行いたい場合に向いています。
また、WAFがカバーしている攻撃の種類や範囲もサービスごとに異なるため、自社のWebアプリケーションが受けやすい攻撃に対応しているかも要チェックです。
7-3. 管理画面の使いやすさや可視化機能
実際に運用するうえで、管理画面の使いやすさは非常に大きなポイントになります。アラートの確認やルールの調整、トラフィックのモニタリングなどをスムーズに行えることが、日々の管理負担を軽減してくれます。
さらに、攻撃ログの可視化やレポート機能が充実していると、「どんな攻撃が、いつ、どれくらいあったのか」を把握しやすく、改善に向けた分析も行いやすくなります。
7-4. 自社に合った料金プランが用意されているか
クラウド型WAFには、月額固定制や従量課金制、アクセス数に応じた段階課金制など、さまざまな料金体系が用意されています。自社のサイト規模や予想されるトラフィックに応じて、無理のないプランを選ぶことが大切です。
トライアル期間が用意されているサービスであれば、実際に使ってみて相性を確認するという方法もおすすめです。
まとめ
クラウド型WAFは、手軽に導入できて、常に最新のセキュリティ対策を維持できるという点で、多くの企業にとって非常に魅力的な選択肢です。特に近年では、DX推進やWebサービスの増加に伴って、サイバー攻撃への警戒がより重要になってきています。
ただし、クラウド型にもオンプレミス型にもそれぞれメリット・デメリットがあるため、自社のセキュリティ要件や予算、運用体制にあわせた選択が求められます。
クラウド型WAFを導入する際は、単に「最新のサービスだから」という理由ではなく、
- なぜ導入するのか(目的)
- どこまでを守りたいのか(対象)
- 誰が運用・管理するのか(体制)
といったポイントを丁寧に整理したうえで、自社にぴったり合うサービスを選んでいきましょう。
正しく選び、うまく活用すれば、WAFはWebアプリケーションを守る強い味方となってくれます。
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