1. 「4K8K放送」ってそもそも何?
最近テレビを買い替えた人や、家電量販店をのぞいたことがある人なら、「4K対応」「8K放送対応」といった言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。
とはいえ、「結局4Kって何?」「普通のBSと何が違うの?」と聞かれると、ちょっと説明に迷う方も多いはずです。
ざっくり言うと、「4K」「8K」は映像の“きめ細かさ”を示す言葉です。
従来の地上デジタル放送(2K)が約200万画素なのに対し、4K放送はその4倍の約800万画素、8K放送に至っては16倍の約3300万画素という超高精細な映像を楽しめます。
たとえば風景の奥行きや、スポーツ中継での芝生の一本一本までくっきり見えるほど。まさに「テレビが窓のようになる」世界です。
では、その高精細な映像はどうやって届けられているのでしょうか。
実はここが、今回のテーマである「機器選び」に関わってくるポイントです。
2. 4K8K放送の電波は「右旋」と「左旋」でやってくる
BS・CS放送の電波は、宇宙の衛星から私たちのアンテナへと届きます。
そのときに使われるのが「電波の偏波」という仕組みで、電波が空間をどんな向きで振動しているかを示します。
従来のBS・CS放送は「右旋(うせん)円偏波」という方式を使っていました。
これは電波が右回りにねじれるように進むタイプで、長年この方式で放送が行われてきました。
一方で、4K8K放送では右旋だけでなく「左旋(させん)円偏波」も使われています。
つまり、電波が逆方向にねじれるタイプの信号も飛んでいるということです。
右旋だけでなく左旋も使うことで、より多くのチャンネルや高品質なデータを送れるようになったのです。
ここで問題になるのが、「左旋の電波は、従来のアンテナでは受け取れない」という点。
これはラジオでAMとFMが別の受信機でないと聞けないのと似たようなもので、4K8K放送を受けるためには、左旋対応のアンテナが必要になります。

3. 対応機器が必要な理由
「じゃあ、左旋対応のアンテナを立てればOK?」と思うかもしれませんが、実はもう少し奥があります。
衛星放送の電波はアンテナで受信したあと、ブースター(増幅器)→分配器→テレビという流れで各部屋に届けられます。
つまり、電波を中継するすべての機器が「左旋に対応している」必要があるのです。
たとえば…
- アンテナが右旋のみ対応だと、4K8Kの一部チャンネルが映らない
- 分配器やブースターが古い規格だと、左旋の信号が減衰してしまう
- ケーブルが劣化していると、4K8K特有の高周波信号が通りにくい
といったトラブルが起きることもあります。
「映るには映るけど、ノイズが多い」「特定のチャンネルだけ映らない」などの不具合は、こうした機器の相性が原因のケースも少なくありません。
4. 右旋・左旋のちょっとした雑学
少し余談ですが、この“右旋・左旋”の仕組み、じつは理系的に見てもなかなか面白いものです。
「右回り」「左回り」といっても、実際には電波がスクリューのように空間を進んでいるイメージです。
右旋の電波は右ねじのように、左旋は左ねじのように回転しながら進む。
これをうまく使うと、同じ周波数でも回転方向を変えるだけで別々の信号を送ることができます。
つまり、“同じ道路を右車線と左車線で別の車が走る”ようなもの。
これにより、限られた電波帯域の中で多くのチャンネルを届けられるようになったのです。
4K8K放送が実現できた背景には、こうした電波技術の進化もあるわけですね。
5. 今のままで見られる人、見られない人
では、実際に「4K8K放送を見るには何が必要か?」を整理してみましょう。
まず大前提として、4K対応テレビを持っていれば地上波の延長でそのまま見られるわけではありません。
地デジとは別の電波を受け取る仕組みだからです。
現在、BS/CSチューナー内蔵テレビを使っている場合でも、
- 左旋非対応のアンテナを使っている
- 4K8K対応ブースターや分配器を導入していない
といった環境では、4K8Kの電波を正しく受信できません。
逆に言えば、アンテナや分配器を対応製品に交換することで、すでに持っているテレビを活かしながら4K8K放送を楽しめるケースもあります。
つまり、「機器を全部新しくする必要はない」場合もあるんです。
6. 4K8K放送を受信するために必要なもの
ここまでの話をまとめると、4K8K放送を見るためには「左旋の電波を正しく受け取れる環境」が必要です。
そのためにチェックすべきポイントは、大きく分けて次の4つです。
- アンテナ(左旋対応のもの)
- ブースター(高周波対応・4K8K対応)
- 分配器・分波器(左旋対応)
- 同軸ケーブル(伝送ロスが少ないタイプ)
この4つがきちんと揃っていれば、基本的にはどの家庭でも4K8K放送を楽しめます。
ただし、どれかひとつでも古いままだと、せっかくの高画質映像が「映らない」「途切れる」といったトラブルにつながることがあります。
7. アンテナは“左旋対応”がカギ
まずはアンテナ。
4K8K放送を受けるためには、左旋・右旋の両方に対応したBS/CSアンテナが必要になります。
従来のBSアンテナは右旋しか受信できませんが、4K8K放送の電波には左旋も含まれているため、対応していないアンテナでは一部チャンネルが映りません。
つまり、「古いBSアンテナをそのまま使う」というのは難しいわけです。
見分け方としては、アンテナ本体やパッケージに「4K8K対応」や「3224MHz対応」といった表記があるかどうか。
この“3224MHz”というのは左旋電波の周波数帯を示しており、これに対応していれば安心です。
設置場所も重要で、壁面・ベランダ・屋根上など、取り付け位置によって受信感度が変わります。
特に左旋の電波は右旋よりも若干減衰しやすい傾向があるため、アンテナ角度の調整がシビアになります。
DIYでも取り付け自体は可能ですが、受信方向の微調整は測定器がないと難しいため、映像が安定しない場合は業者に頼むのが確実です。
8. ブースターで信号を増幅する
アンテナで受け取った電波は、ケーブルを通って各部屋に分配されます。
このとき、距離が長かったり分配点が多かったりすると、電波が弱くなってしまうんです。
それを補うのがブースター(増幅器)の役割です。
従来のブースターでも電波を増幅することはできますが、4K8K放送の信号は周波数が高いため、対応していない機器では逆にノイズが入ることがあります。
そのため、3224MHz対応ブースターを選ぶのが基本。
室内用・屋外用などタイプもさまざまですが、屋外設置なら防水性能をチェックしておきましょう。
また、ブースターには「電源部」が必要なものもあります。
屋根上やベランダなどアンテナ近くにブースター本体を置き、屋内に電源部を設置して給電する構造が一般的です。
電気工事士の資格が必要な作業になることもあるので、不安な場合は無理せず業者に依頼した方が安心です。
9. 分配器・分波器の交換も忘れずに
意外と見落とされがちなのが、分配器と分波器。
アンテナから来た電波を複数の部屋に分ける装置が「分配器」、BS/CSと地デジの信号を分けるのが「分波器」です。
ここも古いものだと、左旋の高周波信号に対応していないケースがあります。
特に4K8K対応をうたっていない分配器をそのまま使うと、左旋電波が通らず映像が途切れることがあります。
見た目が小さい部品でも、信号品質に大きく関わる重要なパーツです。
交換する際は、「4K8K対応」または「3224MHz対応」と明記されたものを選びましょう。
最近では分配損失が少ない高品質タイプも増えており、配線が長い場合や分配数が多い家庭では、そうした製品を選ぶことで安定した映像が得られます。
10. ケーブルにも“寿命”がある
意外と盲点なのが、同軸ケーブル。
屋外に配線している場合、紫外線や雨風による劣化で信号が弱くなることがあります。
特に10年以上前に設置した環境だと、ケーブルの被膜が硬化して内部のシールドが損傷していることも。
4K8K放送では高周波の電波を通すため、古いケーブルではロスが増えやすいです。
交換時は「S-5C-FB」や「S-4C-FB」などの4K8K対応同軸ケーブルを選ぶと安心です。
また、ケーブルの接続部にはF型コネクタをしっかり締め付けておくことも大切。
緩みがあると、わずかなノイズでも映像に影響します。
11. DIYでできること、業者に任せるべきこと
ここまで見ると、「結構やること多いな…」と思うかもしれません。
たしかに、アンテナから分配器までをすべて交換するとなると、それなりの手間がかかります。
ただ、すべてを業者に依頼しなくても大丈夫。
実は、配線の一部交換や分配器の入れ替えなどはDIYでも対応可能です。
たとえば…
- 壁面端子の先にある分波器を交換する
- 室内の古いケーブルを新しいものに変える
- ブースターの電源部を取り替える
といった作業であれば、一般の方でも十分行えます。
逆に、屋根上のアンテナ設置や外壁配線の引き直しなどは、安全性の面からも業者施工がおすすめです。
特に高所作業や電源の扱いがある場合は、電気工事士資格が必要なケースもあります。
12. 買い替え時のチェックポイント
「うちはまだ映るから大丈夫」と思っていても、4K8K放送をフルに楽しむには環境を見直す価値があります。
買い替えの目安としては、次のようなサインがあれば検討してみましょう。
- BS/CSアンテナを設置してから10年以上経っている
- 一部のBSチャンネルが映らない、またはノイズが多い
- 家の中で複数テレビを使うと映像が途切れる
- ケーブルが屋外で色あせ・ひび割れしている
これらはいずれも左旋対応前の設備によくある症状です。
特に分配器やブースターは普段目にしない場所(天井裏や外壁裏)にあるため、気づかないまま古いままになっていることも少なくありません。
13. まとめ
4K8K放送は、単に“きれいな映像”を楽しむための技術ではなく、
これからの放送インフラのスタンダードになりつつあります。
対応環境を整えることで、ニュースもスポーツも映画も、まるでその場にいるような臨場感で味わえるようになります。
必要なのは、対応アンテナ・ブースター・分配器・ケーブルといった基本的な設備だけ。
今の配線環境を一度チェックして、少しずつ4K8K対応へアップデートしていくのもおすすめです。
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